音質誕生の裏話
スピートンフィルタの誕生:
徳島大学での雑談中、1994年の11月の終わり頃。
“波形の特長を崩さずに、低音高音を強調できないか?”
という、一人の教授の質問が開発の発端となる。
スタッフが“一週間でできる”と安請け合い。
この質問を技術的に表現すると、
“位相を崩さない低音高音の強調”
ということになる。
人の聴覚にとっては音質は位相に
依存しないにもかかわらず。
入手できるディジタル信号処理プロセッサが
数千円の頃。
アナログ回路での実現は簡単ではない。
請け負った以上、
何とか格好をつけなければならない。
質問の主から、催促を受ける。困ったな~。
ターミネートする良い言い訳はないかな~?
悩み始めて約一か月。
若い時に勉強した、関数論の中の一つの無限級数が
頭をかすめる。
これだ! アナログでも実現できる!
回路は数秒でまとまった。
BASICで
“波形の特長を崩さない低音高音強調回路”
をシミュレーション。
結果はバッチリ、期待通り。
早速、質問の主に波形のシミュレーション結果を送る。
教授は、即座に、“音を聴いてみたい”。
無限級数を簡素化して四次でフィルターを設計。
大晦日の紅白歌合戦を聴きながら、
オペアンプと調整ボリュームが多数並ぶ回路を試作。
正月明けには、音を聴けるようになった。
私自身、この音が何を意味するか?
その時は何も感じなかった。
動機は責任感だけで、音質には興味がなかった。
もちろん、音質(音色)に関わる仕事の経験もない。
さて、教授の反応は?
これはすばらしい!
期待したよりもはるかにすばらしい!
??????
確か、オペアンプ10個、ボリューム6個
くらいであったと思う。
この回路、音がいいなら、
簡素化して金にならないかな~????
テーマがない時でもあった。
他にめぼしいテーマが無かったから、
この“簡素化”と“完成度を上げる”に集中できた。
まず、完成度を上げよう、、、、
どのようなコンセプトで?????
若い時からクラシックギターを手にしていた。
私は、今、音の仕事をしているが、
家ではステレオ装置を持っていない。
その理由は、私が買えそうなどのような音響装置も
生のギターの音質を再現することはできない。
からである。
“いい音”と“生音”とは、言葉にはならないものの、
決定的に違うところがある。
“完成度“
の目標に設定したのは、
”生音“
に近づける。である。
“生音”=“楽器を演奏する人が聴いている音色”
“簡素化”=“数十円で具現化できる”
を自分なりの目標とした。
この日から、
方向転換というか、狂ったというか、
間違ったというか????
とにかく、何もかもが変わってしまった。
1995年の一月のことである。
まずは、音色の完成度を上げることから。
“2メートル先のマイクロホンで拾ったギターの音色が
“共鳴板に耳を当てた音色”に限りなく近づくよう、
6個のボリュームの組み合わせや回路定数を調整した。
これは膨大な作業であった。
この作業には、俳句創りで鍛えた
“納得のゆく完成度”と“正確な自己評価”を徹底した。
得意とする計算による設計ではなく、
徹底的にカットアンドトライによる
“聴覚に頼った追い込み”
繰り返し、繰り返し、修正、比較、修正、比較、、、、
回路簡素化と音色の完成度の双方を満足させるための、
改良作業は一年ほど続いた。結果、落ち着いたところは、
回路=オペアンプ一個
完成度=ギターの共鳴板に耳を当てて聴く音色
1995年末であった。
完成度を上げる途上、この音質改善の機能に
SPEATEN(スピートン)と名付けた。
この回路を通した自分の声が、
頭の中に染みこんでくるような印象を受ける。
SPEATEN(スピートン)は
SPEAKとLISTENを組みあわせた造語である。
さて、手元に資金はなかった。
SPEATENフィルターをお金に換えなければならない。
ともかく、
商品の可能性を説得できる試作品を作らなければ。
試作品の図面を書き終えて、その名前をどうしょうか、、、、
この段階で、頭に浮かんだのが、
“シャキット”
音がシャキットしているから。
ガンカラーの鉄箱に白のシルク印刷で
“シャキット”
という名前が入った。
これが、サウンドシャキットの始まりであった。
その後、名前を変えようとトライするも、
変えられない名前となってしまった。
この試作品サウンドシャキットは、確か10セット作って、
あちらこちらに配って、評価をお願いした。
今、徳島事務所に1セットが残っているだけである。
その後、この試作品の1セットが、銀行からの
1億3500万円 の無担保(住み家だけ)
無保証融資決定の役割を担うことになる。
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