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ホテルにパスポートを忘れる

私は Can you help me? という言葉を使う機会が多い。

 何故かというと、説得力があることを何度も体験しているから。

 今では、この言葉は極めて自然にでてくる。

マレーシャのペナン島に住む台湾国籍のKさんから、

 ドイツの半導体の会社の照会を受ける。

 音質つくりの心臓部を、

 アナログバイポーラ集積回路で作ろうという。

 アナログICは、

 金も時間もかかるし、できるかどうかもわからない。

 リスクが高い。

 理由を言って断ったが、彼が設計費用を出すという。

 返せない、と言うと、かまわない、と言い切った。

 このアナログプロセッサ開発の本論は別の原稿に回すとして、

 

ドイツでも大きな失敗があった。

 ある、金曜日、

 ニュールンベルグという町(フランクフルトから車で3時間)

 仕事の打ち合わせがあって、木曜日の夜、その町に入る。

 金曜日は仕事を終えた後、マインツまで車で移動。

どうしてなのか、たまたまなのか、

 この日のホテルではパスポートの提示を求められなかった。

土曜日は、休日のところを無理にお願いして、

 設計中のICの打ち合わせを済ませた。

 翌日の日曜日の早朝、

 コペンハーゲンへの移動のため、フランクフルト空港へ。

 カウンターでチェックイン。ところが、パスポートがない!!

頭が真っ白。落ち着け、落ち着け、落ち着け、と言い聞かせ、

 いろいろな場面を思い起こしてみた。かすかな記憶が浮かんだ。

 どうやら、ニュールンベルグのホテルで朝食の前に、

 何気なく、金庫に入れた(ように思う)。

それしか考えられない。電話、電話、電話(電話も不得手)。

 金庫を確認してくれるよう、頼んだが、

 ホテルの規則では勝手に開けられないという。

 一緒に確認する規定になっているそうだ。

 ここでは融通が効かない。

 えええええ? ニュールンベルグへ逆戻り?

もう、コペンハーゲンどころではない。

 パスポートを手中に納めなければならない。

 Can you help me? の連発である。

 フランクフルトからニュールンベルグのフライトは

 満席とのこと。

 この国ではコクピットは無理。電車しかないのだ!

駅? 駅? 駅? ホームは一つではない。いくつかある。

 ようやくの思いで乗るべき電車を見つける。

 何回も確認した。外国で電車に乗るのははじめて。

 落ち着かない。

 何人かの乗客にも訪ねて確認した。

 停車駅の名前を聞き取れないので、まず、時間を確認。

 そして一駅ごとに、次の停車駅を確認。

 しばらくは電車まかせ、と一息つく。

 2時間ほどであったように思う。

 ニュールンベルグに着いた。

 こんなことでも、なしとげると満足感がある。

 幸い、ホテルは駅から歩ける距離にあった。

フロントで金庫のことを伝えると、

 すぐにも部屋へ案内されて金庫を開けた。

 あった!!!

まずは一安心だが、

 さてこれからどうやってコペンハーゲンへ???

 ここでも Can you help me?

 事情を話すや、

 コペンハーゲンまでのチケットの手配にかかっていただいた。

 休日、混んでいるフライトを、

 コースを選んで、目的地まで行き着く便の、

 すべての手配をしてくださった。

 途中の乗り換えのポイントのメモ。空港までのタクシーの手配、

 完璧であった。

 丁寧にお礼を述べてホテルを後にした。深い親切さを感じた。

その日の夕刻、

 遅れはしたが中継地のコペンハーゲンから、

 目的地の何とかいうローカル空港にかろうじて到着できた。

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