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座席はコクピット

 

海外出張では多くの失敗を経験している。

 言葉が理解できないことが原因。

 何度目かは覚えていないが、ペナンからの帰り、

 中継地のクアラルンプールへのフライトの時、

 

国内線ということで、余裕をみて、

 30分前にカウンターへ行った。

 ところが満席というのである。

 この便に乗らなければ、

 クアラルンプールから関空までのフライトに間に合わない。

 チケットは持っているのに、、、どうして満席?????

 何か言おうとしたが言葉にならない。

 何をしゃべったか覚えていないが、

 仏様をおがむように、手を合わせて食い下がった。

 

カウンターにはもうカーテンが引かれている。これは大変。

 乗務員の席でも、立ってでも、床の上でもどこでもいいから。

 乗せてくださあい!! という思いで食い下がった。

 相手も困惑している様子。

 日本語なら、

 予約チケットを持っている。どうしてくれる?

 と自然に口が動であろう。

 

第一、日本の国内線で、

 30分前に無断でキャンセルなど、考えられない。

 もうフライトの10分前、比較的人の良さそうな方であったので、

 しゃべり続けて、離さなかった。とうとう、彼は言った。

 

機外の入り口までは連れてゆくから、ついてこい、という。

 早足で歩き出した。何とかなるかもわからない!

 ここで待て、という。ドアの手前である。

 フライトの時刻は過ぎている。

 入り口から首を伸ばして中をのぞいても様子はわからない。

 

搭乗員が、再々、ちらっと、こちらを見る。

 ずいぶん長く感じたが、たぶん1分くらいであっただろう。

 先ほどの人が機内から出てきて、入れという。

 コクピットのドアが空いている。

 

そこでも良ければ、という!!!

 ありがたい!!!

 お礼にと1万円札を手渡したが、

 受け取っていただけなかった。

 規定を曲げて、好意で便宜を図っていただいたのに、

 失礼なことをしてしまった。

 

操縦室の後にある狭い座席。

 ベルトが下から、横から、上から、

 座席は板のように堅いが、そんなことはどうでもいい。

 これほどの安堵感を味わうことは、

 そうそうあるものではない。

 小さい飛行場。すぐに飛び上がった。

 

上がってしまうとパイロットは気楽なもの。暇そう。

 私は、一件落着で、

 気持ちが軽くなっていることも手伝って、

 空の40分の間、夜景を見ながら、

 キャプテンと喋りまくった。

 

クアラルンプールで降りたとき、

 多くの乗客から何やらメッセージをもらった。

 みんな笑っていた。

 二度と経験することがない締めくくりであった。

 

日本に帰って、数日後、

 フランスでコンコルドが離陸に失敗墜落。

 この事故の後であれば、

 コックピットには座れなかったであろう。

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